心と脳に栄養補給

本やら美術やら映画やら、すこやかなマインドのために楽しんだものあれこれ

藝大の講義をお手元に『東京藝大で教わる西洋美術の見かた』

東京藝大で教わる西洋美術の見かた (基礎から身につく「大人の教養」)

「バランスよく作品を知るより、個々の作品に対する具体的なアプローチを学んだほうが、実は美術鑑賞のコツを得るには手っ取り早いのです。」

 

この本の著者の佐藤直樹先生の言葉です。

通常、西洋美術を学ぼうとしたとき、その多くは歴史の流れとともに、代表的な作家と作品を取り上げ、その時代時代の特徴を追いながら学校の歴史の授業のように進みます。

しかし、この本の目的はそのような通史的な見方をすることではなく、各時代の作品を取り上げ、その一つ一つを細部までひろい、構図を見て、丁寧に分析することで、そこから帰納法のようにその時代のエッセンスとその画家のエッセンスを抽出することです。

なので通史的に学びたい人にはあまり向かないかもしれませんが、一つ一つの絵に隠されたメッセージや、その背後にいる画家の人生、その時代背景など、一つの絵の見方を学びたい、一つ一つの絵に隠された物語を読み解いてみたいという方には非常におすすめです。

 

一応、私は一通りの美術史は理解していますが、それでもこの本の解説は非常に興味深く、細部の細部まで拡大して画家の意図やそこに暗示される意味を読み取っていく作業はとても楽しく臨場感のあるものでした。大学時代にこんな勉強できていたならなあと芸大生をうらやむばかりです。

 

佐藤さんは実際に東京藝術大学で教鞭をとられている先生で、ハマスホイ展の監修をされた方でもあります。この本をまとめる際は、実際に藝大で実施している講義を本に閉じ込めるような感覚で執筆されたそうです。

一般的な歴史の教科書のような美術本が好みではない方には、臨場感のあるこの本はぴったりだと思います。

 

カラー図版でわかりやすくたくさん絵画も載せられていますが、本のサイズの制限上、小さくて見づらい細部もありますので、スマホやパソコンで同じ絵をじっくり拡大して眺めながら読み進めるのも面白いかと思います。

 

佐藤先生のこの本を読んで得られる知識は、単なる知識ではなく、今後も鑑賞に役立つ特徴やフレームワークなど、どちらかというと「知恵」に近い感じがしました。

 

とにかくとっても楽しんで読めました。

ゴールデンウィーク、ぜひご一読あれ。